EISCAT_3Dレーダーは、日本を含む6ヵ国で運営する欧州非干渉散乱(EISCAT)科学協会が中心となり、スカンジナビア北部に建設中の世界初の多局式フェーズドアレイレーダーシステムです(図1参照)。EISCAT科学協会の日本の代表機関である国立極地研究所は、EISCAT_3Dレーダーを中心とする先端的大型レーダーの共同利用・共同研究の推進を目的として、先端的レーダー研究推進センター(ARRC)を2022年4月に設置しました。
先端的レーダーが切り開く科学
このEISCAT_3Dレーダーは、現行のEISCATレーダーに比べ観測性能が約100倍に向上することにより、幅広い高度域にわたり超高層大気中の電離気体の密度や温度、速度の3次元分布とその詳細な時間変化の観測が初めて可能になります(図2のイメージ図を参照)。それにより、太陽風エネルギーの極域への流入と応答過程における未解明問題に対してブレークスルーをもたらすことが期待されています。さらに、先端的レーダー研究推進センターでは、南極昭和基地で運用中の大型大気レーダーであるPANSY(図3参照)の共同利用・共同研究を推進します。これらのEISCAT_3DとPANSYとの連携により、全球規模での気候変動モデルの精度向上や将来の気候予測への貢献が期待されます。また、宇宙天気予報の精度向上への貢献による、太陽に起因する宇宙天気災害リスクの軽減や、地球科学最大規模のビッグデータと最先端のデジタル技術の活用による情報工学技術の発展などの波及効果も期待されています。
先端的レーダーの共同利用・共同研究
EISCAT_3Dレーダーは、2024年度にファーストライトを行い、2025年度より国際共同で第1期運用を開始する予定です。同じく、PANSYレーダーは2023年2月から始まる南極観測の第64次越冬期間に国際共同利用を開始します。それらに合わせ、先端的レーダー研究推進センターでは、EISCAT_3Dレーダーを中心とした先端的レーダーの共同利用・共同研究を推進・強化します。具体的には、先端的レーダーの利用者による独自の実験立案から研究成果発表までの間に必要とされる、多岐に渡る支援活動を行います。特に、先端的レーダーによる観測及びデータ解析に必要とされる技術開発や、先端的レーダー観測から得られるデータの整備・運用や公開を実施する予定です。それにより、EISCAT_3DレーダーやPANSYレーダーが多くの研究者に利用されることを期待します。